Chapter6
ガンによく効く?「ラエトライル」
Laetrile

「ラエトライル」とはアンズの種の中にある甘酸っぱい液からとれる無色の液体である。スウェーデンでは、食品店でアーモンドのエキスと同じ位の値段でその原料を買って、それからエキスを作ることができる。メキシコでは末期ガンの「治療薬」として一滴五十ドルで売っている。もちろんガンはおろか、どんな病気にも効かない食わせ物であることが、あらゆる証拠からわかっている。かといって、ガンの末期患者に確実に効く薬など処方してくれないから、どんな法外な値段でもラエトライル売りの言うなりになってしまう。絶望の淵にある人にとっては、証拠などどうでもよいのだ。
同じように多くの管理者は、「生産性について絶望の淵」に立っているので、生産性向上に効くと称する技術的ラエトライルのカモにされてしまう。 (64p)

管理者はちっとも自分の会社の生産性があがらないことに絶望している。そんなとき営業マンがあらゆるメディアを使って、「生産性が何倍もあがる」というツールを紹介してくる。また、同業他社の管理者から人伝いで「あの会社は何倍も生産性があがったらしい」との情報を得てくる。管理者はその内容に飛びつき、とりあえずそのツールを部下に試させる。だが、このような経緯で導入されるツールはまず90%うまく行かないだろう。

ツールというのは短期間のうちではむしろ生産性を悪化させる。ツールを使うためには十分な教育と時間が必要である。ほんとうに生産性が改善されるのはツールを使い始めて何年か後になる。だが、管理者が焦ってこのようなツールを導入しても、生産性で大きなプレッシャーを感じている作業員は即効性のないこのようなツールを扱おうとはしないだろう。今までどおりの作業のほうが確実だし、実際にそれは正しいのである。ただし、作業員にとって上から押し付けられたツールというのは、「実はプロジェクトがうまく行かなかったのはツールのせいなのです」といいわけできる絶好の理由なので、もしかしたらそれを受けるかもしれない。まぁ、いずれにしても失敗するだろう。

「他の管理者は二倍も三倍も成果を上げている」
そんなことは気にするな。そんなに騒がれる方法は、ソフトウェア開発ライフサイクルのコーディングとかテストの部分に焦点を合わせているにすぎない。だが、コーディングやテストの段階がすべてなくなったところで、百パーセントの改善が期待できるわけではない。依然として、システム分析、顧客との折衝、仕様書作り、研修、受け入れテスト、コンバージョン作業、そしてシステムの切り替えなど、やらなければならないことがいっぱい残っている。 (67p)

ツールが効果を発揮させるためには何が必要なのか。それは、管理者が作業者にいらぬプレッシャーを与えないことである。作業者がやる気をださなければ絶対に生産性はあがらない。もちろんチーズバーガーなら怒鳴りつければ生産性はあがるだろうが、ソフトウエア開発はそうはいかない。管理者が作業者に作業を「やらせる」という意識を持ちつづけている限りは絶望的なまでに生産性は改善することはない。

雪が降りしきるある日、私は病床から足を引きずってオフィスへ行き、顧客デモ用の不安定なシステムを立て直していた。シャロン(注:著者であるデマルコの新人のころの管理者)は、部屋に入ってきて私を見つけ、コンソールの前で倒れそうになった私を支えてくれた。彼女はちょっと姿を消したが、やがてスープを持って戻ってきた。それを私に飲ませて元気付けた後で、私は彼女に、「やらなければならない管理資料が山ほどあるのに、どうしてこんなことまでしてくれたのですか?」と尋ねたところ、彼女は専売特許になっているにこやかな笑顔を顔一杯に浮かべてこう言った。「トム、これが管理というものよ」
シャロンは優れた管理者の本質をよく知り抜いていた。つまり管理者の役割は、人を働かせることにあるのではなくて、人を働く気にさせることである。 (70,71p)

もはや解説するまでもない。管理というものについて、これほど的を得た言葉はない。

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