Chapter13
オフィス環境進化論
Taking Umbrella Steps

日本企業のビジネス環境では、一般的に開放型オフィスという形式をとっている。この形式では壁がない大部屋にプロジェクトなどの単位ごとに机をならべる。これにはいくつかの利点がある。例えば、他人に電話がかかってきても、対応することができる。また、人がいるかどうかがすぐにわかる。だが、なんといっても最大の利点は部下がサボっているかどうか監視できることだろう。このオフィスの形式を採用している会社の管理者はたいていもっとも監視のしやすい奥に座って、部下がおかしなことをしていないか常に監視している。これにより生産性がかなり上昇すると主張する人もいる。

確かに、このようなオフィスは顧客への迅速な対応が必要な保守部門や営業部門にはかなり有効といえるかもしれない。しかし、集中してものを作り上げていかなければならない設計者やプログラマにとっては最悪の環境である。今まで述べたように騒音により集中力をぶつ切りにされてしまうからだ。では、設計者やプログラマにとっての理想的な環境とはなにか。答えはその逆である。壁を作ってドアを作ればよいのだ。

確かにこのように壁を作ってしまうと、寝ていても気づかないかもしれない。何も作業をしていなくてもわからない。一見、管理者にとっては問題だらけのようだが、そんなことはない。彼らが何のためにそのような場所が必要としているのかといえば、それは何かを作っているからである。だから、その内容だけを毎日チェックすればよい。その内容についてのみ評価を下せばよいのである。これは、どんなに真面目に働いていても駄目な成果物しか残さなければまったく評価されないし、適当に働いていても良い成果物を残していれば評価されることを意味している。

まさに「実績主義」の文化、すなわちアメリカの文化ではあたりまえのことかもしれない。逆に実績よりもむしろ過程を評価しがちな日本の文化では難しいことだろう。時間どおりに仕事をしている人間よりも、残業で必死に頑張っている人間が評価されやすいということだ。だが、日本企業でも終身雇用が否定され、大幅な能力査定が行われるようになってきつつある。近いうちにこのようなことは当たり前になるかもしれない。

では、欧米によくある組み立て式の壁があるオフィスにしたらよいのか。というと決してそうではない。第一、あれでは騒音は完全には防げない。そしてもっとも問題なのは狭くて圧迫感があることだ。これではまるでトイレで仕事をするようだ。

囲われすぎたり露出しすぎた作業空間は効率的に働ける場所とはいえない。よい作業空間はこのバランスがうまくとれている。

「パタン・ランゲージ」(A Pattern Language)
(148p)

日本では窓際族という言葉がある。仕事をほされて窓際においやられるという意味である。しかし、窓の近くで仕事をしたほうが快適ではないのか。集中しているときの息抜きに景色を見ることは良い気分転換になる。壁で仕切られた仕事場では窓があれば閉塞感もなくなるだろう。

昼間の太陽がさんさんと輝いている時間中、窓のないオフィスに閉じこもって仕事をしている。アレキサンダー氏(上記であげたパタン・ランゲージの著者。建築家)は窓のない空間など言語道断だとばかりに切り捨てている。
「窓から外の景色も見えないような部屋は、凶悪犯をぶちこんでおく刑務所と変わりない」
この窓問題が生まれるのは建物の平面が正方形に近くなっているからである。ビルが充分に横長ければ窓の数が少ないという問題は生じない。問題が発生しないようにするためには建物の幅を九メートル以内にする必要がある。

数年前、デンマークの国会で建物に関する新しい法律が通過した。その骨子は、企業は従業員を窓のある場所で作業させなくてはならないというものだ。この法律によって、細長くて幅の狭いビルを建てなくてはならなくなり、ホテルやアパートと同じ方法が取られた。法律施行後しばらくしてからの調査では単位面積あたりのコストは試行前とたいした違いは見られなかった。(ただ)本質的な問題は、コストとは、建物の大きさ、設備などのように非常に目のつきやすい要素であるのに対し、それを埋め合わせる利益面は、生産性の上昇分、退職者の減少など、測定しがたく、目には見えにくい要素であることだ。 (151,152p)

このようなことは現実にはなかなか難しいかもしれない。とくに、ぎゅうぎゅうに押しこめられ、いつ夜になったのかもわからない独房のような部屋で作業している人からみれば、あまりの現実に「そんなことはできるわけがない」と思うに違いない。では、そういうときはどうするか。プロジェクト単位で外に出るのだ。プロジェクトのメンバーで郊外のオフィスを借り、そのプロジェクトらしい個性的なオフィスを自分達で作り上げればよい。

企業のトップやそれに近い人であれば、どのプロジェクトが特に重要かを十分に見極め、キーとなるプロジェクトを別の場所へ移してしまうことをすすめたい。会社にとっては不本意だろうが、重要な仕事やプロジェクトは外へ出したほうがずっとうまくいく。それが現実なのだ。こうすれば、重要なプロジェクトは成功する。(157p)

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